はそなたの礼賛の言葉

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「ではそなたの敬意と崇拝を得るために、わしは何を与えればよかろうか。この五千年のあいだ、わしを崇《あが》める者たちは一人として神殿に詣《もう》でることがなかった。わしは崇拝に飢えておるのだ――そして魂にも」
 ここまで聞いて、これは絶対に仲間の山羊飼いの誰かが自分をかつごうとしているのだとオサは思いこんだ。そこで裏をかいてやろうと、こう答えた。
「そうだな、おれは世界の王様になれて、永遠に生きられて、若いぴちぴちした娘が何千人も、何でも喜んでおれの言うことを聞いてくれて、あと黄金が一山あればいい。そうそう、それと山羊が戻ってきてくれればね」
「その望みと引き換えに、そなたの魂をわしに寄越すか」
 オサは考えこんだ。自分に魂があるのかないのか、そんなことほとんど気にもしたことがない。だったら魂がなくなったとしても、これといって不都合はないはずだ。さらに考えてみると、もしこれが本当に誰かの悪ふざけではなく、相手が本気なのだとしても、さっき並べ立てたとても実現できるはずのない望みのどれか一つでも叶《かな》わなかったら、約束は無効だ。オサは小さく肩をすくめて答えた。
「いいよ、わかった。でもまず山羊を見せておくれよ。誠意の印ってことでさ」
「ではふり返るがよい」声が言った。「探しものをよく見るのだ」
 オサはふり返った。確かにそこにはいなくなった山羊が立っていた。のんびりと灌木《かんぼく》の枝葉を食《は》みながら、不思議そうに青年の顔を見つめている。オサはすばやく山羊を灌木につないだ。この男にはやや心根の曲がったところがあった。無力な生き物を苦しめることに喜びを感じたり、度の過ぎた冗談を仕掛けたり、ちょっとした盗みを働いたり、あたりに誰もいなければ、独りで山羊の番をしている女に、口では言えないような振る舞いに及んだりすることさえあったのだ。オサは貪欲でだらしなく、それでいて自分の頭の良さを過大評価しているような男だった。山羊を灌木につなぎながら、オサの頭はすばやく回転していた。なるほどこの得体の知れないスティリクムの神は、求めに応じて迷子の山羊を見つけ出してくれた。だとしたら、ほかの望みも叶えられるのではないか。これは一生に一度の好機かもしれない。
「わかった」オサは無邪気を装って答えた。「とりあえずお祈りを一つ、山羊を見つけてくれた分だけだ。魂と帝国と富と不死と女のことは、あとで話し合おう。姿を現わしなよ。何にもない空気に向かってひれ伏すつもりはないから。そうそう、名前を聞いとかなくちゃ。ちゃんとしたお祈りをするには、名前を知らないとね」
「わしはアザシュ、古き神々のうちにあって、もっとも力強い者だ。そなたがわが僕《しもべ》となり、ほかの者たちをわが崇拝へと導くならば、わしはそなたの望んだ以上のものをもって報いよう。最高の地位に就かせ、そなたには想像もできぬ富を与えよう。もっとも美しい乙女たちがそなたのものとなり、命は尽きることなく、いかなる人の子も得たことのない、精霊界を統《す》べる力を与えよう。その見返りにわしが求めるのは、オサよ、そなたの魂と、そなたがわが元へ連れきたる者たちの魂だけだ。わしは切実に崇拝者を必要としており、わが孤独は深い。それゆえにそなたの報酬も大きなものとなるのだ。さあ、わが顔を見て、畏《おそ》れおののくがよい」
 石像を取り巻く大気が揺らめき、粗雑に彫られた像のまわりにアザシュの実体が出現した。とつぜん目の前に現われた恐ろしい姿にオサは縮み上がり、地面にひれ伏した。まさかこれほど醜いとは。しかし根が臆病《おくびょう》なオサは、姿を現わしたアザシュに向かって思ったとおりのことを言ったら、即座にこの恐ろしい神の怒りを買って、ひどい仕打ちをされるに違いないと思った。わが身が何よりもかわいい男だったのだ。
「祈るがよい、オサ」石像はほくそ笑んだ。「わが耳に飢えておる」
「おお、偉大なる――ええと――アザシュ、でしたよね。神の中の神、世界の支配者よ。わが祈りを聞き、つつましい賛美をお受けください。あなた様の前ではおれなどただの塵《ちり》にすぎず、あなた様は山のように、おれの前に聳《そび》えています。この憐《あわ》れな山羊を返していただいたことにつき、心の底からあなた様への崇拝と、称讃と、感謝を捧げます。家に帰ったらすぐ、いなくなった罰として、こいつはしたたかに打ちすえてやります」オサは震えながら、この祈りにアザシュが満足してくれることを、せめて気をゆるめて、逃げだす隙《すき》を与えてくれることを願った。
「まずまずだな、オサ。いずれはそなたも、もう少しましな礼賛ができるようになるだろう。行くがよい。わしはしばらく今の粗野な祈りを味わうことにしよう。明日もまた来るのだぞ。そのときはわしの考えていることを、もう少し詳しく教えてやろう」
 山羊を連れてふらふらと家に帰ったオサは、二度とあの神殿へは行くまいと心に誓った。だがその夜、住まいにしていた汚い小屋の粗末な寝床で寝返りをうちながら、青年は心の中で、富と、自分の思いのままに情欲のはけ口となる若い娘たちのことを思い描いた。
「もう少し成り行きを見てみるか」寝苦しい夜が明けるころ、オサはそうひとりごちた。
「逃げるのはいつだってできるんだから」



それをクリングに

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「試してみるかい、ドミ」言いながら立ち上がり、「守れるもの如新nuskin產品は守ってみな。残りはおいらが盗んでみせるから」
 戦士は頭をのけぞらせて大笑いした。タレンはもう男に近づいて、すばやく両手を動かしていた。
「いいだろう、若き盗賊よ」ドミは嬉しそうに笑いながら両腕を広げた。「できるものなら盗んでみるがいい」
 タレンはうやうやしく一礼した。
「お申し出はありがたいけど、もう盗ませてもらったよ。貴重品はほとんど一つ残らずいただいたと思うな」
 クリングは目をしばたたき、あわてて身体じゅうを服の上から叩きは如新nuskin產品じめたが、やがてうめき声を上げた。
「いい結果になりそうじゃないか」スパーホークがささやいた。
 タレンは盗んだ品物を取り出して棚卸しを始めた。
「ブローチが二つ。指輪が七つ。左の親指にはまってたのはずいぶんきついね。金の腕輪が一つ。これ、調べてもらったほうがいいよ。真鍮《しんちゅう》が混ぜてある如新nuskin香港と思うな。ルビーのペンダントが一つ。高く売りつけられたんじゃないといいけど。あんまり質のいい石じゃないからね。あと宝石を嵌《は》めこんだ短剣が一振りと、剣の柄頭《つかがしら》の宝石が一個」タレンはぱんぱんと両手をはたいて見せた。
 ドミは大きな笑い声を爆発させた。
「この子を買うぞ、わが友ティニアン。最高の馬の群れを一つやろう。この子は実の息子として育てる。こんな腕のいい盗賊は見たことがない」
「いや――申し訳ないが、この子は売り物じゃないんだ」
 クリングは嘆息した。「馬は盗めるか」残念そうにタレンに尋ねる。
「馬は服の隠しに入れるには大きすぎるね。でもやれると思うよ、ドミ」
「すばらしい。この子の父親はさぞ鼻が高かろう」
「あまりそんな気はしませんね」クリクがつぶやく。
「ところで、若き盗賊よ」クリングがほとんど申し訳なさそうに切り出した。「財布も一つなくなっているような気がするんだが――かなり重いやつが」
「ああ、いけない、すっかり忘れてた」タレンは額を叩いて、服の下からずっしりと重い革の袋を取り出し、ドミに手渡した。
「中身を数えたほうがいいぞ、わが友クリング」ティニアンが忠告する。
「この子とおれはもう友だちだから、信用することにする」
 タレンはため息をつき、あちこちの隠し場所からかなりの数の銀貨を取り出した。手渡しながら、
「こういうのってやめてもらいたいなあ。楽しみがなくなっちゃうよ」
「馬の群れ二つでは?」とクリング。
「申し訳ない。塩と話だけにとどめておこう」
 二人は塩を振った肉を食べ、タレンは馬車のほうに戻ってきてスパーホークに話しかけた。「馬をもらっとけばよかったのに。おいらなら、暗くなってから逃げ出せばいいんだもん」
「木に鎖で縛りつけられるぞ」
「鎖なんて、一分もあれば抜けられるさ。ああいう馬がどれほどの値打ちものかわかんないの?」
「この子をしつけるには思ったより時間がかかりそうだ」カルテンが言った。
「護衛はいらんか、わが友ティニアン」クリングが尋ねた。「おれたちの用事は大したものじゃない。母なる教会とその騎士団の役に立てるなら、喜んで手伝わせてもらうが」
「ありがとう、わが友クリング」ティニアンは頭を下げた。「だが、こちらの使命はわれわれだけでじゅうぶんに対処できる」
「うむ、聖騎士の武勇は伝説的だからな」